東北地方に位置する、とある地方都市。
その外れにある山寄りの道を、ささやかな花束を携えた青年は、歩いていた。
道端に積もる雪よりか温かな色合いの白衣の上に羽織られた、シンプルな黒いコート。
やや平坦な顔立ちと、眼鏡の奥の深いブラウンの瞳は、紛れも無く現代日本人の物だが、似つかわしくない銀色の髪の毛が黒いニット帽からはみ出ている。
通常、銀髪と言えば白髪に近いが、この髪の毛はよく見れば純粋に鈍い銀色をしている事に気付く。
地方都市といってもその辺りは未だ開発が進んでおらず、山の麓に広がる田畑の中を、縦横に道が走っている。
季節柄、溶けた雪でべしゃべしゃになった車道は、見るものが見れば何とものどかな風景であろう。
口から白い湯気を断続的に吐き出しながら歩いていた青年だが、目的の物を見つければ微かに目を細め、その目の前で足を止めた。
──そこにあるのは、小さな石碑。
それが慰霊碑であり、また墓標でもあると知っている人間は数少ない。そして青年は、その数少ない人間の一人であった。
「明けましておめでとう、シモン」
青年はその石碑の前に膝をつき、親しげに語りかけた。
ここに眠る者に、新年が訪れる事は永遠に無い。しかし青年は、今を生きる自分が無事に新しい年を迎えられる事を、報告しておきたかった。
花束をその墓前に捧げ、目を瞑り、さらに苦笑混じりで続ける。
「もうすぐ私は、貴女と同じ歳になってしまうよ」
≫≫続きを読む